『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』(アニメ)感想考察

 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

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http://www.shimoseka.com/story/11.html より引用

 

 

下セカ、感想考察。評判を聞いて視聴。
原作未読。ネタバレあり。

 タイトルから察する通り、全く下品でエロティックな部分もある健全な作品だが、BPOが仕事をしようにも、作品内容がそのままBPOによる苦情への返答になっている。その程度にエスプリの効いた作品です。下品だけど。

 私は功利的な考えやマキャベリ的な考えに一定の理解はしているし、だから思想統制にも一理はあるとは思っている。だが、国の論理で推し進めた結果、個人に歪な影が見えてくるのを描いている作品だと思います。
 エロいことが規制された世の中では、アンナは何が卑猥なことかを彼女自身が理解せず倒錯した人物に成り果てているし、理解しないと取り締まれないというジレンマに対しては、理解せずにあくまで機械的に対処する朧という歪な人物が出てきます。もしこの作品を下品でエロいから放送を止めろと言ってしまうと、それは「公序良俗健全育成法」によって下ネタが規制されたのと同じで、アンナ達のような歪な存在を肯定することになってしまうのです。規制が正しいことをしていると思い込んでいるならば、なんて質の悪いことか。そんなパンチの効いた作品です。下品だけど。

次に、数話で批判精神はよく分かったけど、残り何するんだろうと思っていましたが、想像以上に「下ネタ」について真摯に(紳士に?)メッセージ性を感じました。

11話で綾女はタイトル回収の演説をしましたが、あれは対外的な部分も大きく、実際彼女の行動原理はもっと個人的なところにあると思います。

「たちつてとなかにはいれ」。これは相手との話題に詰まった時に共通話題になりやすい話題の頭文字をとったものですが、下手すると共通の話題というのはなかなか見つからないものです。しかし、人類なら確実に共通の話題になる話題があります。その1つがエロであり、下ネタなんですね。
 このアニメで怒涛の如く現れる卑猥なメタファーや、自主規制された隠語を想像で埋めるには、エロ知識なくして出来ません。知識がなければリオン先輩のように首をかしげるだけで「ひっでぇ」という感想を持つこともありません。
 綾女が下ネタを言ったりジェスチャーしたりすると、狸吉が突っ込み、鼓修理は被せ、びんかんちゃんははわわします。それはただ音が伝わっているからでなく意味が伝わっているからです。
 綾女にとって「下ネタ」とは本来は誰とでも意味の通じ合えるコミュニケートの話題であり手段なのです。そして、ただのコミュニケートの手段だからこそ、綾女は狸吉の一物を見てグロいと引いたり、バイブの誤動作に引いたり、さらさら実際の行為には興味はなく、一方で一見しっかりと知識がありそうだった朧が現れたときは興奮したのです。
 物心ついたころから「下ネタ」で相手の反応を見てきた綾女にとって(その是非はおいといて)、「下ネタ」を言っても意味を取れず首をかしげられる世界というのは、コミュニケートの取れない、退屈で仕方ない世界でしょう。これがもう1つのタイトル回収だと思います。
 SOXの行動が性知識の流布に留まるのも、彼女がただコミュニケートできる人を増やしたいと考えているからであって、これはつまり、オタクが相手との共通の話題のために自分の好きなジャンルを布教している構図にちゃんちゃら変わりなく、SOXは思想統制する圧政に闘うのと同時に綾女の個人的な布教活動も行っているわけです。だからこそ綾女は意思が固く、強いんでしょうね。

このアニメを見て、下ネタは人類共通の話題なのに、みんな表には出さない裏の魅力があると教えられたけど、やっぱり使いどころは難しいと思う。でも以前よりは人類共通のコミュニケートの手段としての側面を知って、少しは好きになった(なってしまった?)かなと思います。
佳作やね、と思ったら、某ラノベ大賞だったのか。BPOに真っ向から立ち向かいつつ下ネタを勧める構成は大賞と言われても納得はできる作品。作者の下ネタ好きさが十二分に伝わる、下ネタ布教作品でした。
ご精読ありがとうございました。

 

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http://www.shimoseka.com/story/5.html より引用