『ご注文はうさぎですか?』 一期感想 + 二期一話感想

 
 
 

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TVアニメ『ごちうさ』2期 第1羽より先行場面カット到着 | アニメイトTV より引用

 

 

家族と呼べる相手

 原作未読
 ごちうさ2期が、かの「ゆゆ式」を作ったキネマシトラスと共作だと知ったので、一期を予習してきた。
現行のときは、ココアがなんか人間じゃなくてキャラクターっぽいなーと幻滅して1話冒頭しか見てなかったけど、最後まで見るとそれなりに骨のある作品でした。


 私たちは生まれたときに家族を選べない。神の定めのごとく誰々は家族であり、誰々は他人であると決めつけられている。そして、家族は互いに助け合うべき共同体である、みたいな風潮が現実に存在していて、家族であるならば基本的に家族のために相互補助という名の無償の奉仕が構成員に課せられる。他人と比較して、家族という集団にはそのような内側の論理が存在している。生まれたときの家族は選べないのだから、(内側に対して)碌でもない行動をする奴が家族だった場合、「家族」という慣習を呪う人もいるし、家族の組織として重要な位置を占めている人が内側の論理に無頓着で役割を果たさずに家族が瓦解していく話もよく目につく。内側の論理自体は今回の本筋ではないので割愛する。

 生まれたときの家族は選べないが、結婚等で家族を選べることもある(だからこそ結婚に選んだ相手には、自ら明示的に内側に入れたのだから責任を果たせという意見には個人的に賛成)。だが内側か外側かの判断は書類や血統などの物理的な境界だけではない。他人の中にも知り合い、友達、親友、家族同然に漠然と分けられるように、個人が相手を内側外側の直線上のどこに位置付けるかという論理的な境界がある。つまりどの程度心を許すか、どの程度までの内容なら無償の奉仕をしてもいいかと家族だろうと他人だろうと相手一人一人に対して判断している。社会的に物理的に家族という関係だろうが、論理的に家族としてみなしていない、故に内側の論理を果たすつもりのない関係ならば、世間一般的に思い浮かばれるような理想的な家族関係にはなり得ない。
 大筋として『ごちうさ』は、本来の家族以外を内側に通そうとしないチノが、物理的な家族になってしまったココアを、論理的に外側から内側に受け入れていく話で、その中でチノがココアに感化されて頑な態度を変容していく成長物語ですね。子連れ婚時に子供が新たな親を親と呼んでくれるか、みたいな話に通じる部分があります。

 チノは内側に通すのが下手な子です。ただ彼女は警戒心から相手を跳ね除けているというよりは、近づいてくる相手への対応の仕方を知らない人見知りなだけで、根は素直な子です。接客業にも関わらず、お盆で口を隠す動作が印象的でした。
 一方でココアはがしがしと相手の懐に飛び込んでいく子で、「私はあなたを内側と見なすからあなたも私を内側とみなしなさい」と豪腕を振りかざします。彼女は誰に対しても底抜けに明るく、同年代近い相手には相手によって態度を変えるような真似もしない表裏のない子です。逆に言えば、相手によって態度を変えないので、少なくともチノに対しては、チノは対外的に心を開いていないのに素足で乗り込んでくる、一見デリカシーのない態度に見えるんですね。個人的にはもう少しチノに合わせてやれよと初見時には思ったのですが、祖父が言っていたように、人見知りなだけのチノには結構適切な対応だったのかもしれません。実際、チノはココアのお近づきには肯定的な反応を示します。しかしながら、厳として「おねえちゃん」と呼ぶことには否定的です。姉という敬称は家族とみなしている左証ですから、ココアが同じ屋根の下で寝るという物理的な家族になったとしても、チノは内側の論理が適応される仲である論理的な家族としてココアを簡単には迎えません。一期は、チノがココアを「なんだこの客は……」から家族として迎い入れていくまで話で、その中で横のつながりを作っていくココアの豪腕を肯定的に描いていた作品でした。

 ココアは相対する相手から誰からも最初は「なんだこいつ……」やら「変なやつだ」やらと思われがちですが、こちらが心配になるほど真っ直ぐな性格だと分かってくるので、最終的に誰からも受け入れられていく子です。(現実にこのような性格の子は存在してそうかと考えると、やっぱり人間臭くなくキャラクターっぽいなと思える一方で、若さを考えると純粋な性格のままの子が存在している可能性は否定出来ないなとも思えます。ここらへん物語として思春期の子らをメインにする利点な氣がします)。
 個人的にまず『ごちうさ』良いなと思えたのはシャロの存在でした。ココアと対称的な性格の持ち主は、チノというよりシャロな気がします。ココアはすぐに内側に入り込んでいくのに対し、シャロはどこまで外側で対峙しようとしている。シャロのお家事情は見えませんでしたが、正直、本当に生活のことだけを考えた場合、さっさとチノ家なり千夜家なりに転がり込んで、生活費を折半した方が色々と安く済みますし、それが内側の利点なんです。でもシャロにはそれが出来ない。当初は受け入れてもらえるかわからないという不安が大きな原因のようでしたが、物語中盤で家バレして千夜に諭され受け入れてもらえることを肌で感じても、彼女はやっぱり一人で特売に足を運ぶんですね。内側に入るということは、自由が制限されますし、彼女自身の自立しているという矜持や今までの自分との一貫性を天秤にかける必要があります。シャロの生き方は全く不器用で寂しい思いをする生き方で、現代の隣に住んでいる人のことも知らない生活を上手いこと描いている気がします。象徴的なのが、主要人物たちとある程度親しくなった後で風邪を引いても千夜しか見舞いに来ないことでしょう。見舞いに来ないというよりかは、シャロが周知しなかったという方が正しく、彼女自身これは自分の問題で他人には関係ないと思い、やはりチノたちは他人なんですね。千夜はシャロの機微について敏感で、今のシャロを認めつつ、もうちょっと内側に入ることを促す大人な女性でした。(蛇足ですが、ココアはチノとは噛み合いましたが、シャロにチノと同様のアプローチを熱烈に仕掛け続けた場合は「余計なお世話よ!」と言われて、確実に関係が破綻するでしょうね)

 話が飛んだので無理矢理、チノとココアの話に戻します。
 「自らがある人物を家族のように扱うか他人として扱うか」と「相手から家族同然として扱われているか他人として扱われているか」という2つの境界を見誤ると痛い目にあうのが世の常です。例えば自分が相手を家族だとは思っていないのに下手に相手の懐に入りすぎてしまうと、相手が自分に家族としての無償の奉仕を求めてきて、断ることになる。結果相手に「面倒を見てやったのに……」と裏切り者のごとく扱われる。なかなか人間関係の中でも重要な境界線です。
 ココアの戦略は私はあなたを内側とみなしますよーという態度を明示的に示すと同時に、相手がココアを内側と見なす前提で話を進める。「妹ができました」とチノの内心を無視して発する。チノははっきりと否定しますが、もし否定しなかった場合、いつの間にか内側と見なすのが当たり前みたいな雰囲気になってしまうんですよね。ココア、なかなか恐ろしい子です。
 チノはチノで、はっきりと否定し続けるのは彼女らしいです。彼女はココアを内側外側のどこに置いているかという自身の判断を大事にしていて、その位置をココアの戦略によって流れでズラされるのを嫌う、芯のある子です。だからこそ、『ごちうさ』は流されいつの間にかココアが家族同然となっていて「どうしてこうなった?」とチノが戸惑う作品ではなく、チノがココアをチノ自身の判断で内側においたことが分かる作品になり得たのだと思います。
 ココアは父の日やパズルやら事ある毎にチノの信頼を勝ち得てきたわけです。まぁココア自身はイベントをただただ全力で楽しんできただけで、始めから信頼を得ようなんてことは微塵も考えていないようでしたが。8、9話あたりから追うものと追われるものが逆転するのは感慨深いものがあります。

 繰り返しになりますが、物理的に家族であろうと、論理的に家族同然でなければ、理想的な家族らしい家族はなり得ないわけで。日常系というジャンルは暗い日常じゃなくて理想的な日常を描いていますが、『ごちうさ』一期は理想になる過程も限定的に描けているのが他にない目を張る点のように感じました(見ていない日常系作品も結構あるので断定できませんが)。個人的にココアの戦略を全面的に肯定はできませんが、チノのようなガードの堅い相手にはココアのごとく熱烈な積極性が1つの解なのでしょう。この熱さは『灰羽連盟』の「レキ」と「ラッカ」を思い出しますね。個人的に二期はシャロの変化を見せてくれると嬉しいなと思います。
 ご精読ありがとうございました。


追記
二期一話感想
 冒頭、一期一話冒頭と逆でチノがココアの元に訪れる形に。追うもの追われるものが完全に逆転してますね。チノにとってココアは憧憬の対象までになっていて、二期もチノとココアの関係が中心なのかなと思えます。一期OPでチノの横に立っていたココアがチノと対面を向いている(視聴者的には手しか見えない)のも、一期と二期の関係性の違いを感じます。
 OPやEDの歌詞から普通の日常系以上のものは読み取れないし、方向性がわからないな。Cパートにあったチノ母や、OPにいたココア姉(?)との対比実験でチノとココアの関係性を露わにしていく感じなのかな。

蛇足:OP直後のトランペットが印象的なBGMが全然似てないはずなのにアベノ橋を思い出した。人間、達者が何よりやー。

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TVアニメ『ごちうさ』2期 第1羽より先行場面カット到着 | アニメイトTV より引用